Valentine sketch

Take.1


「あ、もうすぐバレンタインなんですねー」
いつものように灰人と夕食の用意していた花は、TVから流れてきた話題に目を瞬いた。その言葉に、灰人も思い出したように「ああ」と軽く相槌を打つ。
「それでか。最近妙に料理番組でチョコレートの菓子類の特集が多かったの」
「そーなんですか?」
そっかバレンタインかー、と呟きつつ何かを考えるようにじっとTVを凝視する花に、灰人はちらりと目をやって。心持ち目元を弛めた。
「作りたいなら材料をそろえとこうか?」
「あ、いえ! 作るなら自分でそろえますからッ」
あわあわと花は手を振り「作れるかどうかもわからないですし」といって、苦笑して頬をひっかく。そういえば、今は派手なテーピングや包帯こそされていないが、つい先日左腕を脱臼したばかりだったかと灰人は思い出した。
 腕に注がれる視線に気づいたのか、花は「気になるほどじゃないんですケド」と笑って見せる。
「でも、一応お医者さんにはあまり使うなって言われてますし。今年はちょっと無理ですかねー」
 むー、と難しい表情をする花に、話題を変えるように灰人が話を振った。
「……去年までは誰かに?」
「ママと一緒に作ってパパにあげてました。あとは友達と交換したり」
「そうか」
 心なしか優しげな表情で相槌を打つ灰人の横顔を見ながら、花は胸中でこっそりと息を吐いた。
(せめて灰人さんと七瀬さんにはあげたいんだけどなー)
 すっごいお世話になってるし。あ、そういう意味では相良さんや各務んもだし、パパにも――
 指折るうちに親しくなった人たちの顔が際限なく思い浮かんでしまう。そのうちの一人を考えて、花は途方にくれて「はぁ」と息を吐いた。
 ……そういえば、怪我して作れない以前のことが問題になる奴もいるのだ。
「うーんどうしよっかな……」
 呟きつつ、もう潰す必要もないマッシュポテトにポテトマッシャーを押し込む動作を繰り返す花を見て、灰人は小さく首を傾げた。

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comment

*初期時間軸で、多分5巻のTake.18〜19の間(雫と掃除してて脱臼したあところ)くらいの話です。
色々と投げやりで、書いてる本人にもどこいくか分かりませんでした(本気)

 初出 [ 出雲奏司 ]

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