この手を伸ばしたら、何がつかめるんだろう。
ぼんやりと歩きながら体の横でブラブラさせていた手を伸ばすと、目の前で色の割りに重たく揺れていた白銀色の三つ編みが飛び込んできた。あっさりと手にのったそれに目を瞬いたら、今度は頭の上に小さな影が落ちてくる。 「うわぁ!」 「キッ♪」 思わず上げた声に、なにやら楽しそうに鳴くザピィの鳴き声が重なる。小さな影は、ヴェイグの肩からジャンプしたザピィだ。 そのままザピィはバランスよく頭の上に着地して、慣れた様子で滑り落ちるように肩まで降りて、フサフサした長ーいシッポでボクの顔をくすぐる。 「あはは、くすぐったいってば。ビックリしたなぁ、もうっ」 「キィ」 ザピィは短く満足そうに一声鳴いて、今度は伸ばしたままだったボクの腕の先まで駆けては肩に戻る。三つ編みが収まったままの手に、どうやら用があるみたいだ。落ち着きなくキョウミシンシンで顔を近づけたりしてる。 「あ、そっか。ザピィはヴェイグの三つ編みにじゃれたかったんだネ」 「キキーッ♪」 そのとおり! と言ってみるたいににアゴを反らして鳴いたザピィに、「はい」と手にした三つ編みを肩に向かって持ち上げてあげる。 「……マオ」 「ん、なに? ヴェイグ」 「歩いてる最中にヒトの髪をつかむな」 歩きにくい、と子どもを簡単に泣かせそーな低い声が、三つ編みの根元の方からため息といっしょに聞こえてくる。ベツにボクは子どもじゃないし、慣れたからいいけどサ。 とりあえず、今はヴェイグに返事だ。 「でもザピィは遊びたそうなんですケド」 ま、せっかく飛び込んできたのを手放すのはもったいないしネ。とゆーことで、ボクは肩に飛び乗ってきたザピィのためにも一肌脱いであげることにする。ボクってヤッサシイ! そういうわけで「ねー♪」と肩の上でじゃれてるザピィと目を合わせる。 ……ていうかサ、そもそも歩きにくいとかって問題なワケ? 普通は三つ編みがグチャグチャになるとか、髪がいたむとか気にしない? ユージーンだって、ああ見えて髪の手入れ欠かさないし。 そんなこと考えてたら、こんどは頭にポンって大きな手が落ちてきた。あ、噂をすればカゲってヤツ? 「マオ、ヴェイグを困らせるな」 だなんて、ユージーンまでヴェイグを援護しちゃってさ。まーたそうやってボクを子ども扱いするんだから。 ま、確かに今回はボクが悪いと言えなくはないんだけどサ。あんまり駄々こねると後が怖いから大人しく引き下がっとこっと。 「はーい」 しょうがないから、肩をすくめてザピィの手から素直に三つ編みを放した。 そのかわり、肩の上のザピィと目を見合わせていっしょにため息をついて。 「残念だったねーザピィ」 「キ」 「まあ、怒られちゃったからしょうがないよネ」 「キィー……」 わざとらしく聞こえるくらいの音量で、いかにも残念そーに肩を落として見せる。ま、これくらいのイヤミ言ったっていいよネ。実際ザピィだってションボリしてるんだし? ユージーンがなんか言いたそうにこっちを見てるけど気にしないもんね。フンだ。 そのままザピィといっしょにため息の輪唱をしてたら、それよりもよっぽど大きなため息が聞こえてきた。 その方向を見ると、案の定顔半分を手で隠すように置いてるヴェイグがいて。 「……宿についてからにしろ」 なんだか疲れてるよーな声だけど、それはソレ。これはコレ。というワケで―― 「ヤッタね、ザピィ!」 「キキィー!」 ボク達はいっしょに歓声をあげた。ザピィなんかよっぽどウレシイみたいでボクの肩の上をグルグル回って、器用に頭の上までかけ登って見せてる。それ見てヴェイグもなんだかほっとしたみたいに、ちょっとだけ表情がゆるんでる。……本当にチョットだけだけど。 なんだかんだって、ヴェイグはヴェイグなりに仲間を大事に思ってくれてるんだよネ。 「ヴェイグってヤサシーよネ♪」 「キッ!」 ボクの言葉に頭の上からは元気な賛成の返事。 そっぽ向いてたヴェイグの表情は見えなかったけど、なんだか分かる気がしてボク達はいっしょに笑った。 手を伸ばしたら、不器用なヤサシサをもらえました。