螺旋階段  <Tales of Etarnia <TOP


 白の世界が途絶え、はじめに映ったのは濃紺の髪を持つ青年。
気配に気がついたのか、はっと打たれたように振りかえり目を見開く。
「誰だ! ネレイドか!?」
 彼女の娘を守るかのように両手を広げ、立ち塞がる。
容姿も服装も異にするというのに、何故かバリルの姿と重なる。
 嬉しさと同時、よぎる一抹の寂しさ。
「……メルディを……頼む……」
すれ違いぎわ、ギリギリ聞こえるか聞こえないかの大きさで言う。
 鋭い青紫の視線が戸惑いに揺れる。
 そのまま青年の横を素通りし、彼女は娘の横に並んだ。
「メルディ……」
名を呼ぶと、娘はピクリと体を震わせた。
 ほんの一瞬、力が弱まる。
その瞬間を見逃さず、肩を青年の方へ押しやった。
 シゼル。
呆然と声なくそう動かされた唇に、そっと微笑んで頷く。
 しかし、それは一瞬の事。
すぐに核へと向き直り、極光波を放つ。
「メルディ、怖れるな」
 もう残された時間は短いということが意識としてあるのに、恐怖はなかった。
あの時……バリルが殺され、メルディを残していきそうになった時は、あんなにも恐ろしくネレイドにさえすがったというのに、今、心はひどく穏やかで。
(ああ……そうか……)
バリル……こんな気持ちだったのだな。
ただ守りたいと願い、遺す者の幸せを願って……

溢れそうになるたくさんの想いを押しこんで、静かに言葉をつなげた。
「別れは終わりではない」
(謝罪はせぬぞ、バリル)
だからこそ、伝えなければいけない。
 バリルから教えられた、この言葉を。……本当の意味を。
 幼き頃聞いた言葉を、この子は覚えているだろうか。
「とこしえに思うことこそ、共にあるということなのだ」
 辛いもの以外、残せるものはもう何もないから。せめてこれだけでも。
優しきこの子が罪深き自分を失って悲しまないように。
だからどうか……
 後ろの二人が息を呑むのが分かった。
 自由になりなさい。メルディ。
もう、私達に縛られることはない。

(ありがとう……バリル)
最後に、一つだけでも残すことが出来ることを感謝して。
知ることが出来た自分に感謝する。

「おかあさっ……!」

最期に聞こえた、娘の声。

 永き時間ときによって隔てられていたものがいま確かに消失したのだと、シゼルは分かり静かに微笑んでいた。






起こしたことの許しを乞おうとは思わない。
自分の想いが間違いであったとも思わない。
真実は想いの数だけあり、正しさも同じ数だけあるはずだから。
一つでも望みが果たせた。
この想いを……最期に聞いたこの想いを知ることができた
……それだけで、十分だから……

  ただ、今は祈っていたい……














――セイファートの望みを達する者がいるとはな。




不意にひらめいた闇の影。
浮上する思念。
呟かれた言葉の意味に疑問のこえを返す。


『……どういうことだ……?』

――セイファートリングは、真の極光術のみでは破壊されぬ。
  闇の極光術のみでも壊れぬのであろう。
  二つの力を合わせ高めあうフリンジすることで、これは消失する。


『何故?』

――互いを憎悪し恐怖し合うお前らを見かね
  セイファートは二つの星をこのリングを用い閉鎖した。
  試練と罰を与えるためにな。
  しかし、いつの日か互いの手を取り合うことができれば
  セイファートの言う『あるべき姿』に戻るのだと……


『……それが、今なのだな』

――そうらしい。

なんの感慨もなく放たれた言葉。
しかし、それは……


『……ネレイド。
 ならば、それは神々にも言える事なのではないか?
 セイファートは提案しているのではないのか?
 互いに共存していこうと。
 ネレイドの民、セイファートの民が互いを認めた時、神々もまた共存しようと』

あまりにも似過ぎている。
2柱の神、そしてその2つの民。


――我らは互いに相反する存在。どうしてお前にそのようなことが言える。


『私は、セレスティアネレイドの民とインフェリアセイファートの民を憎み、同時に愛する者』

だからこそ分かる。


――……

『精神のみを強くしようと、それに伴う力なくしては何も出来まい。
 また形のみにとらわれても、同じことが言える。
 セイファートが精神ネレイドを肯定していないのなら、
 同じ極光の力でありながら闇の極光が敵わなかったのはなぜだ?』

――…………
  我もまた、変わるべきだと?


『……エターニアは本来の姿へと戻った。
 また同じことを繰り返すとしても、それは同一のものではない。
 螺旋階段のように、次なる高みへと昇っていくのだろう』

直截には答えない。
ただ自分はそうであるのだと信じているから。

――…………





やがておとされた穏やかな、なにか。



――……ならば我もまた模索しよう。
  新たな道を。
  暫し我が元で休息するがいい、我が民よ。
  バリルと共に。
 

『……ええ……』

沈みゆく思念。



……夢を見よう……
娘の……彼らの作る新しい未来の……

ねえ……バリル……
















 永き時間ときによって隔てられていたものは確かに消失した。
 彼らが紡ぐのは回帰か、それとも新たなる道か。

それはまた別の物語であり、全ては永遠へと繋がれていく……






-END-


*解釈はきっと人の数だけありますので。当時の私はこう解釈しました。

2001.4.10 [ 出雲 奏司 ]

*この作品がどうだったか教えてもらえると喜びます    いい まあまあ イマイチ




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