5 目が合わせられないのは
熱い。そして、息があがってしまっている。顔だってきっと、耳朶の裏まで真っ赤になってるに違いない。
「クレア……?」
ああ、彼が呼んでいる。不安そうに揺れている声。目を合わせていつもみたいに笑えばいいはずなのは分かっているけれど、でも。
反射的に唇に指先を置く。つい数瞬前まで重ねられていた場所。まだはっきりと覚えているその感触に、熱を帯びて顔が赤くなっていく。恥ずかしさで消えてしまいそうなくらい。
「クレア……その、」
再度、彼が名を紡ぐ。絶望的な色を浮かべかけたそれ。次に来る言葉は簡単に予想がつく。どう転んだって、謝罪か否定の言葉に違いない。
戸惑いつつも離れようとする腕を、それでもぎゅっと捕まえて、クレアは首を横に振る。
嫌じゃない。拒絶してるわけではないの、と言葉ではなく伝えようとして
でも、目を合わせられない。声はさっきから喉の奥で絡んでばかり。どうすれば、分かってくれるのかしらとそんなことを考えながら、クレアはぎゅっとその背に手を回して。
恥ずかしがったりするなんて、そんな暇を与えてくれないくらいに、彼は繊細で、そして鈍感だ。思わず零れそうになった溜め息を飲み込む。そんなことをしてしまえば、間違いなく誤解させてしまうから。
……そこまで思って。
ふっと口元が綻んでくるのが自分でも分かった。さっきまでは、自分のことでいっぱいいっぱいだったのに、気がついたら彼の――ヴェイグのことばかり考えている。
(本当に、浸る暇もくれないんだから)
でも、仕方がない。そんな人だと幼い頃からずっとよく知っていて。それでも傍にいたいと願っているのは自分だから。
ほこほこと湧き上がってくる温かな気持ちに笑い出したくなる。今彼と目を合わせたら、間違いなく笑ってしまう。きっとこんな気持ちを、理解してもらうのはとても難しいからそれは避けなければいけない。
どうしようかと悩んでいると、ぴたりとつけた頬からヴェイグが息を吸い込むのが分かった。きっと、聞こえてくるのは困惑の音なんだろう。
「……クレ」
目を閉じたまま、今度は自分から不安を紡ぐ唇を塞いだ。
……気が付いたら『もどかしい二人〜』じゃなくて、勝手にやってろバカップルになってました。<お題