※注:主人公(マグナ・トリス)が双子で兄弟弟子設定です。 「ねー……これで通算何回目よ」 「知るかよ……せいぜい5回目くらいまでしか数えてない」 お前と手を組んだときだけでな、と口に中だけでつぶやく紫色の髪をぼさぼさにした少年はどこか遠い目をしている。「さいでー」と答える少年によく似た髪の色の少女も、むくれるように頬を膨らませてそっぽを向いている。 「駄目だなぁ……トリス」 「なんでこう、何もかもお見通しかなぁ……マグナ」 お互いにお互いを失敗の要因でないかと暗に含めた言葉をかけて、無言の応酬を行っていたが、やがてそれも無益だと悟って。 『……むなしい……』 二人そろって、見事な溜め息のユニゾンを決めたところで、ボロボロの二人にとどめの一槌が下された。 「君たちはバカか!」 ------- 長くて短いお説教 「いい加減幼児でもあるまいし、学内でつかみ合いの喧嘩騒ぎを起こすなと言えば分かるんだ馬鹿者どもが! しかも二人そろって、授業放棄しようとするとは言語道断だと何度言ったと思ってる!?」 『ご、ごめんなさい……』 滔々と説教を垂れたネスティに、トリスとマグナは素直に頭を垂れて謝る。……が 「こ、これには色々と深い理由が」 「そ、そう! 言えないけど事情があるのっ!」 「ほう?」 怒鳴りつけた振動で僅かにずれていた眼鏡の位置を直しながら、絶対零度を思わせる至極冷静な目でネスティは相槌を打つ。 「師範があちこち謝罪に奔走させられたり、ネチネチと嫌味を言われるだけの理由とやらを聞かせてもらおうか?」 う、と思わず言葉に詰まった双子の弟妹弟子に、ネスティは深々と溜め息を吐いて。 「……全く、最近ようやく多少は落ち着いてきたかと思っていたんだがな」 やれやれと言わんばかりに、頭を振ってじっと二人を見据える。いつものように長々と怒鳴るでもなく、かえって嬲られる様にも思える沈黙と冷たい目。 本気で愛想が尽きるとでも言いたげなそのそぶりに、ぎゅっと拳を握って耐えていたトリスが思わずと言うように身を乗り出す。 「そんな風に言わなくてもいいじゃない! あたしたちはっ――」 「トリス!」 捲くし立てるトリスをマグナはさえぎるように口を塞ぎ、厳しい瞳で睨みつける。 それをどうとったのか。白々とした表情でそのやり取りを眺めて、ネスティは吐き捨てるように言った。 「僕は君たちの言い訳を聞くつもりはない。どうしてもというなら、迷惑をおかけした師範方の前でするんだな」 『……はい』 肩を落として項垂れる二人を引き立てるように、ネスティは取り付く島も有らばこそ。トレードマークともいえる赤のマントを翻して席を立った。 これなら、どんなに長時間でもガミガミと怒られていた方がマシだった。 ぎゅっと握った拳に目を落として、どちらも思うことは同じだった。終始冷たく淡々としたその説教は、とても突き放されるように感じたから。 「ネスティに酷く言われたようだね、二人とも」 「ラウル師範」 ぱたん、と。穏やかな物腰で入れ替わるように扉を閉めて入室してきた師に、トリスとマグナはすぐに直立して。勢いよく頭を下げた。 「ご迷惑をおかけして、ごめんなさい」 「俺も……すみませんでした」 頭を下げたまま上げない二人に、ラウルは目を細めて。両手を挙げ、ゆっくりとその手のひらを二人の頭に乗せると、子供にするように撫でた。 「……わかっておるよ。また、『成り上がり』のことでからかわれたのじゃろう」 頭に乗せられた手とその言葉に頭を下げた二人は、驚いたように目を瞬いて。恐る恐る頭を持ち上げると、穏やかな笑みを浮かべたラウルは「座りなさい」と二人を椅子に促した。 居心地悪そうに、互いに目配せをしているトリスとマグナを、ラウルは微笑ましげに見遣って。 「それに、お前たちのことでなくネスのことを言われたためだったのなら、無理もない」 「え、どうして……」 「何で師範が知ってるんですか!?」 息ぴったりに畳み掛ける双子に、ラウルは対照的に穏やかに言葉をつむぐ。 「ネスから聞いているよ。自分のせいで生じたことだから、あまりきつくはしからないで欲しいとな」 その代わり、自分からきつく言うと言っていたのだと。 「で、でもネスは――」 その予想外だった言葉に、トリスは口をぱくぱくとさせて、マグナもぽかんとする。そんな二人をかわるがわる見て、ラウルは目を細めて答えた。 「ネスは自分が礼を言う訳にはいかんと思ったのだろうな」 「なんで……」 「二人とも、そうしたらまた同じことをやってしまうだろう?」 『…………』 二人そろって、返す言葉もなく沈黙する。それは、否定しようもない事実だったから。 「でも」 ぽつりとトリスが口を開いた。 「あたし……あたしたち、ネスにお礼言ってもらえなくても、怒られても、多分同じことがあったらまた同じことしちゃうと思います」 「……同じく」 ラウル師範は目を細めて、うなずいて。「しかしな」と口を開いた。 「そうやって、二人が評判を落とせば、ネスティもまた何かを言われる要因が増えることにもなるのだよ」 管理能力が問われるのはなにもその師範に限ったことではない。むしろ二人の兄弟子である、ネスティの方がある意味きつく言われることは当然想像されて然るべきことだ。 「あ……」 気まずく、傷ついたような表情で二人は俯く。「それに」とラウルは静かに続ける。 「おまえたちがネスを悪く言われるのが嫌なように、ネスも同じなのだよ」 わかるね、と言われた言葉に。マグナとトリスは師を驚いたように見上げた。信じられないとか嘘だとか、一瞬ならずも思ったけれど。そう考えれば、いつもと違う短くて嫌味なくらいな叱り方も、なんとなく分かる気がしたから。 軽率だった自分たちを思い知らされるようで、今度は恥ずかしさに二人は俯いた。ラウルはそれを目を細めて見つめて。 「そのことも、よく覚えておくんだよ。それじゃあ、私からは終わりだ」 それぞれケンカした相手とさぼった授業の先生のところへ謝罪に行っておいで。肩を叩いて、そう促したラウルの言葉に押されるように、二人は部屋から出て。同時に、大きく息を吐いて立ち止まった。 多分、考えていることは同じだと、二人は顔を見合わせて。 「駄目だねぇ……マグナ」 「なんでこう、何もかもお見通しなんだろうなぁ……トリス」 二人そろって、よく似た表情で息を吐いた。 あまりにも見透かされて悔しいような、自分たちが大切に思われて嬉しいような、困ったようなそれは笑顔。 もう二度としないなんて、約束はできないけれど。 『お見通し』なくらいに大切にされてることは、覚えておこうと思う。……きっと。 *一番『お見通し』なのはラウル師範。 お題「駄目だなぁ。何もかもお見通しか」 |
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