「アッシュ、お前さあナタリアにもうちょっとこう、何か声かけてやれよ」 定期的に入れるフォンスロットの共有――チャネリングによる会話を行おうと繋ぐやいなや向けられたその言葉に、アッシュは常時刻まれている眉間のしわをいっそう深くした。 必要事項の確認と連絡以上のことなどするつもりなど皆無。その上、その内容が『彼女』のものであるならば、なおのこと、苛立ちを抑えられるはずもない。 「貴様には関係ない! 大体なぜそこでナタリアが出てくる」 チッ、と自然とこぼれる舌打ち交じりでそうと叩きつける。 「まともな会話をする気がないならとっとと切るぞ!」 「毎回毎回お前が心にもないような言葉だけ投げつけて、ナタリア落ち込ませるからに決まってんだろっ!」 まるで張り合うかのごとく自分と同じ声が、叫び声となって跳ね返ってくる。 (自問自答でもあるまいに)――そう、浮かんだ考えに、吐き気がした。 「……貴様に何が分かる」 そうだ、こんなやつに……劣化コピーでありながら、確かな場所を――自分が望んでも得られない、『ルーク』を奪った奴になどに分かるはずがないのだ。 苦虫を一ダースぐらいまとめたような声でアッシュが返すのを、何が気に入らないのかルークもまた自棄のように叫び倒す。 「あーあー俺にはお前の考えてることなんかわかんねーよ! けどな、お前もナタリア大切にしてることぐらいは簡単に分かるに決まってんだろ!! いっつも中身が伴ってない拒絶の言葉で人を傷つけんじゃねえ!」 「うるさいっ」 聞きたくもない弾劾の言葉を振り払うように叫ぶが、それは望む効果などもたらすはずもない。自分の身一つ、思いのままにならないように。 ――ただ容赦なく、知りたくもない事実が突きつけられるだけだ。 「何度でも言ってやるよ! 俺はお前の代わりなんてこれっぽっちもできねーし、どうしてやることもできないんだよ! いいか、苦しめてるのはお前だからな!」 叩きつけるようなその声を最後に、同調が切れる。叩きつけられるような衝撃に似たものを受けた気がして、アッシュは無意識に頭に手を当て、片膝をついてしまう。 「……くそっ」 回数を重ねるたび、チャネリングによる負荷がきつくなっていることは間違いないことだった。それだけに残された時間を計らずにはいられない。そう、だからこそ。 『苦しめてるのはお前だからな!』 「そんなことなど、分かっている……!」 ぎり、と食いしばった口からこぼれた言葉は、血を吐くほどに低く、重い。 これは己のエゴに過ぎないのだと、認めたとしても。大切にしたいと……これ以上苦しめることのないようにと望めばこそ、気休めの言葉すら『遺すこと』などできない。 「俺にはもう……時間がねぇんだよ……!」 偽らずにいれば、苦しめる。 残酷な真実を突きつける位ならば、喜んで次善策を選んでやる。 だから。 偽ることなく、口先だけの感情ですむのならば洗い流そう。 いつかお前を苦しめない『真実』を告げられる、その時が来るまでは―― ------- 絶対針路 「ねえ、口先だけの感情だけで、何もかもを流してしまわないで下さいませ」 廃墟となったその場所で、伝えられなかった言葉を彼女は紡ぐ。 「それだけで私が惑わされることも、そのまま許すともお思いではないでしょう?」 返ってくるのは、かすかな残響と穏やかに吹く風。 それでも、黄金色の髪を靡かせた彼女は、迷いなく直立し、真っ直ぐに前を見て。 「――だから私は、お待ちしておりますわ」 何度でも、何度でも。あなたがなんと言おうと。私が待ち続けると思う限り、その思いを手放すことはない。 *必ずしも信じているわけではないけれど。希望を持つことは許されているから。 お題「口先だけの感情で、何もかもを流そうとしないで。」 |
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