「……っ!」 がばっと、勢いよく跳ね起きる。全力で走り回ったあとみたいに、情けないほど息が荒くて、心臓もバクバクいってる。 (あの夢……) 「また……かぁ」 脱力してへなへなと前倒しに掛け布団ごとつぶれる。部屋はまだ真っ暗で、朝なんて当分先みたいだ。 (まーた寝不足だよ……) 経験上、すぐに眠れないのは分かってるから。つぶれた格好から引きずるよう体を起こして、ベッドから足を下ろす。 ……もう、何回目なんだろう。三矢さんに視せてもらったモノを、夢で見てしまうのは。
真夜中の出口へぺたぺたと間抜けな音をたてて、だだっ広い廊下を水を飲むのに往復して。 「はぁ〜〜〜〜」 人心地ついて自分の部屋の真ん中にへたり込む。もう、目はすっかり覚めてる。時計を見たら、午前4時。また半端な…… (やーな時間に起きちゃったなぁ) 二度寝するには遅いような、でもずっと起きとくには早すぎる。 三矢さんに最初に『視』せてもらった日も、このくらいの時間まで眠れなかったっけ。 「予言された未来」……瑞貴と一緒にいる限り、いつか来るという、その日。 怖くないっていったら、大嘘だ。思い出すたびに、涙がこぼれてしまうくらい怖い。 『心は変わらないのですね?』 でも、聞かれた言葉に素直にうなずいた。 それは瑞貴のためなら命も賭せるとか、そういうわけじゃなかったと、思う。だって命を賭けたらダメなんだ。一緒にいなきゃ意味がないから。 ――でも、三矢さんが視せてくれた未来は、あたしが…… 眼裏に焼きついたモノがリアルに浮かんで。にじむ視界を閉じて思いっきり首を振る。 瑞貴と一緒にいること――つまりあたしも瑞貴も生きてること。それが必要最低条件だ。でもそれは、三矢さんの視たモノでは、ぜんぜん両立しない。 「なんでかなぁ……」 一人の部屋で、あたしの部屋にって用意してくれたクッションのひとつに顔を埋める。 ……多分、三矢さんに視せてもらったことを言っちゃったら、瑞貴はどんな手段を使ってでもあたしを自分から引き剥がそうとするだろう。また、あの瞳孔開いたような笑顔で。全部の感情消しちゃうみたいにして。 (ホント、性質悪いよ。危うく何度もだまされかけたし) そーゆう事にかけては、ムカツクぐらいに力もあるし頭が回るんだから。 確かにこっちだって、命が惜しくないのか――って言われたら、否定なんかできないし。それに瑞貴じゃなくたって、誰だって――阿栗先生や三矢さんみたいに引き剥がそうとするんだろう。 でも、それじゃダメなんだ。ううん。 「……そんなのヤだ」 自然とそう、声が出る。 だって、なにがあったって『一緒にいること』が大前提なのに。あのときみたいに、何もかも忘れて一人にしないって、もう二度とあんな顔させないんだって決めたんだから。 ……きっと、これはあたしのわがままだ。それくらいはわかってる。 『それでもやっぱり一緒にいたいの 誰よりも 何よりも あの人が――』 一緒に聞こえた声。そう、気づいちゃったから。 ――あたしも、同じだってこと。何度だって、あたしはこうして一番に瑞貴を選ぶ。 だから、これは絶対に譲っちゃダメな一線だ。 ぎゅっと、クッションごと強く拳を握って。 「だーーっ! もうヤメヤメッ!」 ばふっと、思いっきり視界をふさいでいたクッションを床に叩きつける。 ここで逃げ出したら、あのよわよわのウジウジ瑞貴と一緒だ。来るかもしれない未来を今から怖がっちゃってたら何にもできない。あんな未来、絶対に変わる。変えるんだ。 「うっし!」 両手で頬を思いっきり叩いて――ちょっと勢いよ過ぎて痛かったケド――気合を入れる。 これは、瑞貴のためじゃなくて、あたしのため。未来を変えなきゃダメって言うなら、変えてやろーじゃんか。真正面から来るケンカは望むところだ。 とりあえず、今は。 「寝たろーじゃん。寝なきゃ戦はできぬ!」 ちょっとだけ寝坊を覚悟しながら、あたしは勢いよくベッドに潜り込んだ。 どんなに悩んで眠れなくたって、寝坊したって。朝は必ずやって来る。 *Take29(灰人さんお墓参り外泊)以降くらい。本当はもうちょっと先続けたかったのですが、この小説の体裁では(私には)これが手一杯orz テンポがくどいというか、鬱陶しくなるんですよね……。今もギリギリ……というかやばいか; そーいう意味で瑞貴とかほかの面子なら、もうちょい書き易くなるかな……何にせよ精進。 お題「あなたのためなら命も賭せる。」 |
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