4.握手  <Tales of ...  <TOP

「握手というのは嫌いですよ」
 どういう経緯だったかは忘れたが、そう赤い髪の少年に話したことがあった。
「自分の利き腕を他人にとられる上に、その間はどうしても隙が大きくなる」
ふーん? と、少年は分かっているのか分かっていないのかよく分からない様子で首を傾げていたが、「でもまあ」と頭をかいていった。
「なんかジェイドらしーな」
 槍腕の中に隠してるし、初対面の人間って大抵好きそうじゃなさそうだし。
 つらつらとそう言った少年に、軽く笑って言い添えた。
「まあ、暗殺を狙うにはうってつけのタイミングですから、有用ではありますが」
「……いやなこというなよ」
 こえー、と肩をそびやかし半眼となった少年に、儀礼的に「冗談ですよ」とは口にしたが、信じてはいなかっただろう。
 ――最後だと覚悟していただろうあの場で、握手した彼はなにを考えただろうか。


4.握手


「最後にルークと別れた時、お前握手したんだってな」
 毎度の如く当然のように部下の執務室に居座るピオニーの言葉に、黙々と書類と見合いを続けていた山吹色の頭が上げられた。ただし、滑るペンはそのままで。
「なあジェイド」
 再度声をかけられて、今度はペンを置いて本来の部屋の主――ジェイドは深く溜め息をついた。
「ガイですか? 今度リップクリームに接着剤でも仕込むか、口封じの薬でも研究した方が良さそうですね」
「おーいいなそれ。出来たら是非俺にもくれ。使いたい奴がごまんといる」
「特許取ったら稼げそうですね。検討してみますので、国家予算で研究費いただけますか?」
「きっちり計画書でも出してゼーゼマン説得出来たらな。……とまあ、そいつはさて置きだ」
 軽口の応酬で流すつもりはないのだというように早々に打ち切り、手の中にあった本をぽんと軽い音を立てて閉じる。そのまま傍らにポイと投げるように置かれた本は、周囲を無造作に山としていたものの一部を切り崩し、そこに雪崩と混沌をあたえ被害を拡大させる。
「これ以上荒らさないでいただけますか陛下」
 ジェイドは額に手を置き溜め息をつくが、取り合わずピオニーは続けた。
「珍しいな。あんなに握手は嫌いだといやがっていたヤツが」
 しかも自分からだって? どこか面白がるように片眉を跳ね上げこちらを見た青い瞳を見返し、諦めたようにジェイドは眼鏡のつるに手をやり掛け直す。
「……だからですよ」
「なに?」
 一転訝しげな表情となったピオニーから目を離し、深く椅子に座りなおす。長時間同じ体勢でいた身体が一時の休息に歓声を上げるのを感じながら、ジェイドは「ですから」と続けた。
「嫌でも印象に残るでしょう。以前ルークにも握手嫌いを話してたので、きっと陛下と同じことを考えてるでしょうし」
 まあ、深い意味があるわけじゃないんですけどね。と相変わらず感情の読めない表情で、ジェイドはふっと笑った。
「いうなれば置き土産ですか」
「おい、冥土のみやげってんじゃねーだろうな」
 ガイラルディアに絞められるぞと、半ば自身も据わった目をするピオニーに向かい、ジェイドは「いえいえーとんでもない」と、どこまで本気かつかめない調子で肩をすくめ首を振る。
「……まあ、実験の一環ですよ」
 笑わないレンズ越しの瞳の奥に宿る光は、剣呑な光を湛えて静かに散った。


 そう。
 記憶の残される『場所』がどちらであれ、思い知らせるそのための――



 見ようによっては、ジェイルクに見えなくもない?(意図してませんが)
お題見た瞬間、唐突に思いついたもの。やっぱEDのあの握手は印象に残りますから。

2006/05/07 初出  【出雲奏司】

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