「アニスって、器用なのね」
「ほえ? 急にどしたのティア?」
「あ、ううん。いつも、一人で髪をきれいに二つに分けて結んでるでしょ? どうやったらそんな風に出来るのかしら……て」
「んー、毎日やってて髪にもクセがついちゃってるし、もう慣れちゃってるからなんともいえないんだけどー……練習?」
その言葉にほうと溜め息をついて、ティアは肩を落として呟く。
「……やっぱりそうよね」
ちょっとだけ前に傾いだ顔につられるように、ティアの肩に長い髪が滑り落ちるのを見て、アニスはふと気がついたことを口にした。
「そういえば、ティアは結んだりしてないよね。そんなに長いと邪魔になるんじゃないかなーって思うんだけど」
「あ、わ、私は……その……」
何気なくの言葉に、なぜかティアは慌てたように言葉をどもらせて。
にやりと遊び道具を見つけた子供ように笑ったアニスは、「あれー?」とティアを覗き込んだ。
「んー? なになに? ティアって髪とか弄るのって苦手だとか? うわ、うっそー意っ外ー♪」
からかい半分でそう口にすると、ティアの赤い顔がさらに真っ赤になって……
(あれ?)
ここで思いっきり反論が飛んでくると予想していたアニスは、完全にもじもじと俯いてしまったティアの反応に固まった。この反応から考えられることはそう多くない。
「えっとぉ……もしかして、図星、とか……?」
「……」
恐る恐る聞いた言葉に、こくんと小さくティアが頷いて。
今度こそ本気で『ウソー!?』と胸中で叫び、アニスは頭を抱える。
(……これでルークの髪を切ったとか絶対うそだ。っていうか――)
思いついた事実に、そうだと勢い込んでティアに聞く。
「で、でもでもっ、仕官学校って肩より長い髪はアップにしなきゃだめだったんじゃ」
「それは……帽子で隠せてたから」
『…………』
尻すぼみの言葉に続いたのは沈黙。帽子の中がどうなってたかなんて怖くて聞けない。
「はうぁー、ティアがそんなこと苦手だってビックリだよ。ちっちゃい時に教えてもらったりとか……」
いいかけて、「あ、そっか」と符に落ちる。それに気付いたよういにティアも「そうね」と頷く。
「お祖父様や兄さんは、そういうこと気にする人じゃなかったから。それにユリアシティでは、一緒に遊ぶような子はいなかったし……」
「んじゃ、あたしの髪で練習してみる?」
ぽん、とアニス自身も何の気なしに言った言葉だったが、すぐに名案だと自分の言葉に満足したように頷く。
「え?」
「自分で自分の髪結ぶのとはまた違うだろうけどさ」
一方のティアは、虚を付かれた様に目を丸くて。すぐに両手を勢いよく横に振る。
「で、でもなんだか悪いわ」
激しく尻込みするティアに、アニスはにっこりと笑って。
「いーの、いーの。一回ケーキ一個で手を打ったげるからv」
「……わかったわ」
ちょっとだけ疲れたような声だったが、アニスは満面の笑みでティアに櫛を渡した。
TOAメモに落としたのは絵だけでした。そのほうが良かったかも(……)
乙女ちっくな会話はかゆいからと、あえて避けてたら妙なことに。……えと。ごめんなさい(本当に)
2006/05/06 初出 【出雲奏司】
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