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『それが幼馴染の役目ではなくて?』

「麗しき幼馴染愛……ね」
 ふと思い出した言葉に、酷薄な笑みを口元に貼り付けて吐き捨てる。
 腕を組み横目で眺めるのは、必死で離れていた時間を埋めようとする王女と、傍目にはそれを無視するようにかわし続ける教団兵。
 あるいは隔たれ流れた時を取り戻せると思い込む夢見がちな少女と、本来あるべき場所を離れ別の名で生きてきた、孤高を演じたがる素直になれない少年ガキ
 それは、そう。酷く滑稽な見世物のように思えた。そんな茶番に自分から加わろうなど、夢にも思わない。
 信用がならないからとここまで付いてきてはみたが、その男はかつての『ルーク』そのままに変わりなく、横柄で独善的だった。忌々しいほどに国を思うその心根も。そして少なくともナタリアがいる限りはこちらに何らかの危害を加えるといったことはないだろうことも。
 もっとも、だからといって協力したり、馴れ合う気もないだろうことも明白ではあったが。
 だが、自覚があるのかないのか。過去を捨てきれぬままにいること、そして共にありたいと望む思いがともすればナタリアと同じほどにあることを。
 すうっと、瞳が細くなる。口に刻まれるのは嘲笑以外の何物でもない。
 分かっていないのか、認めたくないのか。……どちらにせよこちらには関係のないことだ。せいぜい足掻けばいい。伸ばすための手すら振り払う為にしか使えない子供は、いつか自分でその過ちを知ればいい。こっちの知ったことではない。
 どうせこの手はアイツを前にする限り、組まれたまま解けることも、そのつもりもないのだから。
 拙く演じられる茶番を視界から消し、進むべき先を思う。
 ヴァンの目論みも、7年前の真実も大方の見当が付いた。
 とりあえず、それらの懸念が晴れれば、もうここには用はなかった。戦力的にも、一人抜けたところでどうこうするほど柔な面子でない。どのみち、同じ前衛でありながら、真実息の合った連携も碌に組まないようでは、いてもいなくても大差はない。
 結果として、置いてきてしまう形となった『偽りレプリカ』と断じられた少年を思う。剣を捧げることを賭けた、真実の友。
 そう、例えばナタリアが、『約束』を交わした時間を持つアッシュこそを「ルーク」と呼ぶように。記憶を失い、復讐以外の可能性を教えてくれた「ルーク」との7年間こそが、自分にとっての真実だ。
 ……アイツが『本当のルーク』だというならば、残してきたルークこそが『俺にとっての本物』だと。欠片の迷いもなく心が告げる。
 思うことは多々ある。仇の息子としての憎悪。育て、側近く仕えてきた責任。だが、どう足掻いてもこの先も仕えるべき主として、被験者だというあの男を……アッシュを見ることは出来ないだろう。そして、残して来たあいつは、そして自分もまた、互いを必要としている。それだけは確かだ。
 これ以上、迷う必要などどこにもない。始終腕を組み考え込む必要などない場所へいこう。
 どうせ組まれた腕で取られる剣など、モノの役に立ちはしないのだから。




*初回ベルケンドの離脱直前あたり。色々加筆修正してたらいよいよガイ様真っ黒に。
ガイってある意味大佐並に(ベクトル違いで)歪んでる気が。あの人あたりの良さというか、気遣いや常識人的なもので隠れてますが。結構怖い人だと思ってます。でもそういうとこ含めてすごく好き。

2006/05/04 初出  【出雲奏司】

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