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「共に歩いていく証が欲しいの」


 それは、とても卑怯な言葉で、あなたに辛い思いをさせることになるのかもしれない。
 でも、だからこそ、わたしから言うの。
「命は繋がりゆくものよ」
目の前にある顔が、泣きそうな表情に歪んだ気がした。
でも視覚が捉える彼は、いつもの表情にただ戸惑いを映していて。
それらのどちらも真実で錯覚であることは分かっていた。
「形は変わっても、受け継がれていく想いも命もあるのよ」
 あなたは何も言わない。全てを隠そうとするような鳶色の幕の奥で、光が静かに揺れた。
 悠久の時間の中に取り残されて、ただ見送り続けて来た者の、それは慟哭なのかもしれない。そしてその痛みにわたしが触れてもいいなんて、思えなかったけれど。
「もう、全部ひとりで背負おうとしないで。あなたは、ひとりではないわ」
 口にする言葉ほど、わたしは強くないかもしれない。
 それでも、それでも。
 目を逸らさずに真っ直ぐにその深い鳶色の瞳を見つめて。
「約束よ。わたしが守るわ」
 約束の儚さをあなたは、そしてわたしも知っている。
 でも口にした言葉に宿る言霊が簡単に潰えないこともまた、わたしは知っている。

 だからどんなことになったとしても、きっと守ると誓った。
 この、命を。



  * * * * *


”共に歩いていく証が欲しいの”


 喪う時を思わなかったわけではない。躊躇ったからこそすぐには応えられなかったアンナの『願い』。
”ひとりで背負おうとしないで”
短いだろうその命を感じ、ひとり遺すことになるのを憂いたのかもしれない。独り立つことの辛さを、あれなりに解していたのだろうと今は思う。
 危惧したとおり……というべきなのか、自分は大き過ぎた喪失に一度は全てを放棄した。儚きものに、僅かでも期待をしてしまっていたと、己の愚かさを嘲笑することで全てを誤魔化すかのように。
 それでも思考の奥底に染み付いた僅かな祈りを叶える為に生き長らえ、久方ぶりに降り立った地で見つけたのは……
「クラトス!」
 ざわざわと木の葉が揺れ、風に乗って声が届く。ゆっくりと声のした方向へ振り返ると、大きく腕を振りかぶりこちらへ近づく少年がいた。僅かに昔の記憶の中にある忘れ得ない面影を確実に映して。空に向かい伸ばす手の甲に輝くのは、青いエクスフィア。
「……ロイドか」
 わざとらしい、と感じてしまうのは自らに秘めしものがあるからか。名を呼ばれた本人はそれに気付いた様子もなく、屈託なく笑顔をこちらへ向ける。
「剣の稽古に付き合ってくれよ! 今日こそ一本とってやるからなっ!」
 両の手に握るのは対なす剣。構える姿だけはいつも勇ましいのだが。
「フ……その意気がいつまで続くか見物だな」
「んだと! 今日はぜってーに勝つまでやってやるからなっ!!」
 息を弾ませて意気込み拳を握る姿。そしてその姿の中で日の光に反射し光をこぼす青のエクスフィアに、微かに目を細める。 
”約束よ。わたしが守るわ”
 知らぬ間にも、果たされていた。いや、今なお果たされている約束。
”形は変わっても、受け継がれていく想いも命もあるのよ”
 もしも、もしもまだ間に合うのならば。途絶えぬ想いがあるというのならば。
 与えられた『命』、そして得た『命』を今度は私も守ろう。


 ロイド。私の命を繋ぎ、我等の『命』を継ぐもの。







お題の意味があるのか誰より自分が激しく問いたい。 そして親子というより夫婦な気が(ぉ
あ、アンナさんを示す描写入ってない!;<素でボケ


2003/10 初出  【出雲 奏司】

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