ナデシコ
別に「大和撫子」みたいな人でないと認めないとか、そういうこと考えてたわけじゃなかったけれど。
「でもいくらなんでもアレはないと思わない!?」
ダン! っと机を叩きつけてさけぶ雫に、刑部は相変わらず「ハイハイ」と呆れた様な溜め息をつく。
江ノ本花――兄様が選んだのは、慎ましさだとか清楚とはまるで無縁の、がさつで乱暴な野生児とでも言った方が似合いのような、その人。
そして兄様の綺麗な黒髪と、まるで対照的な軽薄そうなひよこ色の髪で、とてもじゃないけどお似合いだなんていえない。
兄様の趣味をどうこう言いたくなんてないけれど、でも――
「どうしてあんな『大和撫子』から程遠そうな人なんて選んだのかしら……!」
ぎりぎりと、相手が口の中にいればすりつぶしてやるといわんばかりの形相の雫を、「重症ね」と刑部はポツリと漏らして。
ふと、手にしていた本をぺらぺらとめくって見つけたものに、面白そうに口元をゆがめた。
「……あら、そうでもなさそうよ」
「なによ! あの人が『大和撫子』だとでも言うつもり!?」
完全に頭に血が上っている雫に、刑部は「読んでみたら?」と、ページを開いたままの本を差し出した。
開かれたページと、刑部が指し示す先の項目を読み進める雫の顔が、徐々に強張り青ざめていく。
「う、ウソ……」
「ね?」 言ったでしょう? とヤレヤレとでも言いたそうな刑部の横で、雫は墓穴を掘ったとでも言わんばかりにその場に崩れ落ちた。
『ナデシコ (なでしこ/撫子)――花言葉:純愛・大胆・勇敢』
*拍手においてたプチネタ。純愛はさておき(ぉ、流石にあの勇姿wを見たら否定できまいて(笑)私もちょっとびっくりしましたが……意外な花言葉。
2007.8.30 初出 【出雲奏司】