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だいっキライって思ってたのに
いつの間にか、憎みきれずに流されてる自分がいる



------- このまま


「あーーーーー!! また頭ふいてないッ!」
絶叫がだだっ広いこの家に響き渡る。
 とはいえ、こんなことはもはや日常茶飯事。いっつも落ち着いてる灰人さんはもちろん、絶叫上げさせた相手も反応はない。ったく、ホントーに手がかかるッ!(しっかし、こーいうときつくづく家も庭もムダに広いトコでもよかったと思うよ。近所迷惑とか考えなくていいもんね)
 とにかくこうしてる間にもぼったぼったと床にまき散らされる水の根っこを絶つために、サッ、と手近なところからタオルを引き出して、ふらふらと歩き回る常識なしの頭に投げつける。
「そんな頭じゃソファがぬれるって何回いったらわかんのよ! シミになったら灰人さんがあとで大変でしょーがッ!!」
 文句を言いながら、投げつけたタオルの上から乱暴にゴシゴシと頭をふいて。
「ちょっと聞いてんの瑞貴!?」
「ウルサイ。とっとと続けろ」
ようやく返ってきた返事はそんな不機嫌そうな声。反省とかいうものなんて全くナシ。
「はいはいどーせあたしは借金持ちの召使ですよッ!!」
乱暴さを増して、ガシガシとかきまわす。これもいつも通りのパターン……って言ってしまうのはシャクだけど、事実なんだよねぇ……
 タオルごしに頭をかき回す音に混ぜて、ふうって溜め息をついてしまう。
 いつのまにか習慣になっちゃったこのやり取り。怒鳴ってばかりいるものの、実はこの時間は嫌いじゃなかったりする。
 もちろん、怒って言っていることは瑞貴じゃあるまいし演技でもウソでもなくて本気だけど。なぜだかこうしている時、瑞貴の瞳は心なしか安心したように穏やかになるから。そのことになんとなくあたしもほっとするのだ。
 んー、穏やかというと少し違うかもしれない。
最初命令だといった時の瑞貴の目が、淋しそうな子犬の目に見えたから。……いや、正直似合わないってか、自分でも勘違いじゃないかって今でも思ったりするけどさ。
でも実際、今こうしてるとなんかやたら無防備だし、瑞貴は孤独を感じなくてすむみたいだったから。
(なんだかなぁ――)
 どうも、妙なトコで調子を狂わされてばかりな気がする。猫かぶりの鬼畜外道のクセに、なんでか嫌いきれないし。あたしも友達ができて余裕もちょっとは出てきたせいかなぁ、なんて思ったりもしてるけど。どーもそれだけじゃなさそうっていうか……
 うーん。
 思わず考え込んで、無意識に手を止めると、間髪いれず声が飛んでくる。
「手が止まってる」
「文句言うなら自分でやれってーのッ!」
「ヤダ。おまえがしろ」
「あーもうッ、あーいえばこーゆう!!」
やけになって再開すると、また口を閉じて大人しくなる。(構ってって吠える犬かっての)
 そういえば、『なんちゃって婚約者』のことにしても、こればっかりだ。なにもいわないまま、散々振り回してくれるしさ。昔のこともいまだに分からずじまいのまんまで。
(――でも)
 ひとつだけ、なんとなくだけど分かったことがある。なんちゃって婚約者だからだろうけど、あたしのこと結構気にかけてくれてること。おじーちゃんの形見の時計と羽衣祭で見せた顔とか言葉とか。
 ……ずっこいなぁって思うケド、嬉しかったのもなんとなく納得しちゃったのも本当だ。思ってたよりもずっとずっと、必要としてくれてて、考えてくれてるんだなぁって。
 だから出来るだけこいつの味方でいてやろうって。どんなに文句をいったって『なんちゃって婚約者』もやめたりしないって決めた。
(まあ、どんだけ役に立ってるかは微妙だけどねー)
 むしろ、余計なことばっかな気もする。人から恨まれるのやなのにサ。
「ねー瑞貴っ……て、あーーーーッ、またそうやってすぐ寝るッ!!」
 ふとタオルの合間から覗きこむと、瑞貴はぼーっと舟をこいでる。ぼんやりと目をあけてるけど、気持いんだかしらないけど寝ぼけてるみたいだ。
 まったく、こんなの見てるとあの外面大王なんて想像できないよね。ホントに憎ったらしいくらいなんでもそつなくこなしているのに、こういうとこ見るとすっごい子ども。
 ……いっつもポーカーフェイスの振りするクセに、たまに怖いくらいにまっすぐ心を伝えてくるしさ。
 そーだ。きっと、だからだ。
 輪をかけて『ほっとけない』なんて思ってしまうのは。中途半端で見えなくて、何でかしらないけどいっつもぐらぐらしてるから。
 きっと、あたしが知らなかったり分からないところで、こいつはこいつなりに大変で考えたりしてるんだろうなって、分かってきたし。同情するわけじゃないけど、もう少しくらい黙って味方でいてやろうって思う。瑞貴のまだ話せないっていう『理由』が分かるまで、自分の直感信じてみるのも悪くないと思うし。(どーせ借金のカタだから拒否権なんてないんだけどサ)どうせなら、前向きに考えた方が楽しいしね。過去のこととか知りたいことも、まだいっぱいあるし。
 ま、これでも最初の頃に比べたらかなり進歩だよね。うん。
 『なんか膿んできてる〜〜〜〜〜!?』って思わなくもないけど。
 ま、いっかってね。たとえこんな鬼畜で外道な捻くれたヤツでも、やっぱり笑ってて欲しいから。困ったり悲しいよりも、楽しく笑ってる方がいいもん。アイツお得意のニセ物笑いじゃなくてね。
 あっちこっちくる嫌がらせとかだって、今のところ何がきたって負ける気なんてないし。きっとなんとかしてやるサ。
 だから――
 いー加減疲れたし、ムダにお綺麗な顔した、外面だけの常識なしの頭をぺしりとたたく。
「とっとと起きなさいよ、いつまでさせる気ッ!?」
「一生」
「寝ゴトは寝てからいえっての!」
「グー……」
「ッて、ホントに寝るなーーーーーーッ!!!」



とりあえず、このままでいい、かな?




*一番最初に書いたPG創作(大幅書き直し済) 当時の記述見ると、あの髪拭くシーンすごく好きで気がついたら構築されていた話のようです(今も好きvそして勝手に習慣になったと捏造/ぇ)
でも最初から最後まで、花のスタンスは変わらないですよね。色んな意味ですごいなぁ>花

2002.2.23 初出/2007.8.1(改稿)  【出雲奏司】

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