プレゼント  <プラチナガーデン <TOP


 あたしが瑞貴にあげられるものって、きっと形じゃないものがほとんどで。
 それこそ、全身で全力で体当たりしなきゃ無理っぽいことばっかりで。
 だから結局悩んで悩んで決めたプレゼントは、たったの一つしか思いつかなかったのだ。


  プレゼント -- It's little wishes.



「プレゼントどーしよ……」
 提案した時からもう何回言っただろう。宙をにらんで溜め息と一緒に吐き出す。
 手持ちで自由になるお金のほとんどは瑞貴から預かってるカードだし、じゃあ料理? と思っても灰人さんのを毎日食べてること考えたらとてもじゃないけど比較にならないし。それに瑞貴って食べることこだわらないし、甘いものもダメ。そもそも金持ちだから必要なものは全部揃えてて、物欲なんてあるのかって感じだし。
 あれもダメこれもダメ。
 ひとしきり色んなもの考えてみたけど、どれもこれもダメ出しばかりで、そのまま机の上に突っ伏す。
「困った……」
 そのまま、「う〜む」って腹痛みたいに唸ってしまう。
 ――クリスマスのプレゼント交換。
 あたしが言いだしっぺだし大見得きっちゃったから、なんか「コレだっ!」って感じのものじゃないとヤだし。……なにより、せめてこんくらいでも、本当に小さなことでも嬉しいこととか幸せなこととか分けられないもんかなぁって、思ってしまうから。瑞貴っていっつも気づいたらあたしの知らないところで、際限なくズルズルとグルグル一人でやってそうだもん。
 ……ホント、あたしが記憶なくして一緒にいない間おじーちゃんがいなかったらどうなってたんだか……
(わー……シャレになんないね……)
 想像しかけてやめる。ひたすら怖いことになりそうなのは間違いなさそうダヨ。
(……おじいちゃん?)
 ふと思いついた。あたしとおじーちゃんの持ってたもの。
 ぱたぱたと机の引き出しをあけて、その場所を確認して。目的のものをほっと取り上げると、ジャラジャラと鎖が音を立てた。
 ――そう、おじいちゃんの形見の懐中時計。
 多分、最初の記憶戻る前のあたしを一番ここに引き止めるきっかけになった理由。そういえばあたしがもっているもので、唯一瑞貴も手放したがらなかったモノだったっけ。
 派手に喧嘩しちゃった時のことも思い出して、苦笑する。結局なんで返してくれなかったか聞けなかったケド――
「……コレしかないよねぇ」
 パカっとあければ、ちっちゃい頃のあたしと瑞貴が出てくる。
 にへらって、つられるように笑ってしまう。馬鹿みたいに嬉しそうに笑って瑞貴に乗っかるあたしと、それを振り払わずにいる瑞貴。あたしはこのころから、これからもずっと瑞貴と一緒にいるのが当たり前なんだって、それこそ当たり前に考えてた。
 でも、瑞貴は。こんな昔から、ずっと一緒にいられることなんて信じてなかったって言う。
 ……まあ、無理もないのかもしれないケド。実際、あたしはつい1年前までスパッと瑞貴のことを忘れちゃってて、おじーちゃんの言葉がなかったら今でも知らないまま、瑞貴にも会わずのんきに暮らしてただろうし。
(……おじいちゃんには、感謝しなきゃだよね)
 本当に、色んなコト、きっと忘れちゃったままいたと思うから。そりゃその方が、面倒はなくて楽だったかも知んないケドさ。知っちゃった今となっては、思い出さないままのほうが良かったなんて絶対に思えないもん。
 ――あんな瑞貴の顔、見てたらサ。
 思い出して、ぎゅっと懐中時計を握り締める。
 いつもいつも言葉足りなくて、まっすぐじゃなくて分かりにくい態度ばかりだから、何度も何度も間違えそうになって不安にもなって、同じこと繰り返さなきゃいけなくなっちゃうことも多いケド。それでも、今あたしは瑞貴と一緒にいたいと思うし、瑞貴に幸せになって欲しい。
 瑞貴は、何にも欲しがらないけど。でも、何も欲しくないわけじゃなくて、ただそれがなくなったり、自分で壊してしまったり、傷つけたりしちゃうのがすっごく怖がってるみたいだから。
 あの時も――記憶が戻ったばっかのあたしを、遠ざけたときみたいに。
 ……人を傷つけるくらいなら、平気で嘘吐いたり自分を傷つけてしまうぐらい、優しすぎる瑞貴だから。
 だから、ひとつぐらいちゃんと見える形で、手元にあったらいいんじゃないかなって思うのだ。簡単に壊れない、変わらない確かな何か。この時計が、瑞貴にとってそう思えるものかは分からないけど。多分、返してくれなかった理由は、そういうこともあるんじゃなかったのかなって思うから。
 これを見て思い出せばいい。自分と一緒にいて、ここまで嬉しくって笑える人間がいるって。
 きっと、おじいちゃんも、ずっとこんな風に見てくれてたんだろうから。いつかあたしたちが、こうして一緒にいたいと思うになるって、多分誰より知ってたんだよね。記憶をなくしちゃったあたしに嘘ついた瑞貴に、もう一度(借金のカタっていうのもどうよって思うけどさ)会わせてくれたみたいに。あたしたちが一緒にいてあのタイムカプセルを掘り出すのまで疑いもせずに、瑞貴を大切に思ってたみたいにして。
 あたしたちはきっと、ずっとおじーちゃんに見守られてここまできたから。
 だから……
「――決まりだね」
 一番あげたいと思うのは、瑞貴が幸せになる未来だけど。でもそれはあたしだけの力じゃどうにもできなくて、とても難しいから。
 まだ、ホントのホントに瑞貴を幸せにできる方法は見えてこないし、見つからないけれど。でもだからこそ、それまではおじいちゃんに見守っててほしいと思う。
 多分一番最初にあたしと瑞貴が一緒にいることを願ってくれたおじーちゃんだから。
(あたしも頑張るから、力を貸してねおじーちゃん)
 これは願掛けだ。ずっと一緒にいられるように。それは瑞貴のためだけじゃなくて、あたし自身の願いのために。
 ぎゅっと握り締めて、祈るように時を刻む音を響かせる時計を額に当てる。


 どうか一つでも多く、瑞貴に楽しい時間が増えますようにって。
 あたしが噛り付いてでも、今度こそいつだってそばで一緒に同じ時間を刻み続けられますように――






-END-


*あちこち使い回し雑文行き予定でしたが、内容的にははずせないかとここに。

2007.6.3初出 [ 出雲 奏司 ]
*この作品がどうだったか教えてもらえると喜びます    いい まあまあ イマイチ



BACK    TOP
プレゼント  <プラチナガーデン <TOP
inserted by FC2 system