05.目覚めた時に   <プラチナガーデン  <TOP

 懐かしい香りに誘われ、思い出したものに気付いて。
 瑞貴は眠りに閉じていた目をゆっくりと開けた。


 花は、昔からどんなものに触れることもためらわなかった。
 ふつう女子なら嫌がるようなセミやバッタなんかの虫だとか、カエルやトカゲまで捕まえて。まるで猫が捕まえたエモノを「褒めて」といわんばかりに人に見せるように、彼女の祖父や自分に持ってきては差し出して見せていた。
 そして花は、同じように死に触れる自分の手も少しのためらいもなく握ってみせて。楽しそうに、嬉しそうに「いこう!」と言っては、自分を狭い世界から連れ出した。
 そうやって、いつだって花はその全身で目の前の世界全てに飛び込んでは抱きしめていた。
 嬉しければ空気さえ巻き込んで笑い、怒れば相手が何だろうと殴りかかって、悲しければ大声を上げて泣いて。
 そんな彼女を通して映される世界は、いつだってひどく鮮やかだったから。他の思い出よりも強く焼き付くように残されたのだ。
 そう。手を握って、あるいは抱きしめられるたび、花の動きにあわせて跳ねてはきらきらと輝く金色の髪からは、いつもお日様のにおいがした。
 そのことも――

05.目覚めた時に


「あぁ……」
やっぱりそうだ、と。
 目を開けて一番最初に目に入ったものに、瑞貴は目を細めて笑った。
 フローリングと腕の上に広がる色素の薄い、陽の光を集めたような金の髪。陽光に長く晒された干草に触れているようなあたたかな匂い。
 それらを認識しながらゆっくりと目を瞬きして。そういえば一矢が隔離されていた天原の別宅から戻って、花と話してそのまま眠りについていたのだと思い出した。
 そのまま静かに耳をすませてみれば、自分のものではない穏やかな寝息がすぐ傍ですうすうと響いている。ついで乗せられた重みによる腕の痺れと、まるで逃げるなといわんばかりにしっかりと握られた服を確認して。
「今日はずいぶんと大人しかったんだな」
 聞こえていないことをいいことにそう言って、くっと喉を鳴らして瑞貴は笑う。昔は、起きても寝てても散々踏んだり蹴ったりを繰り返されていたのだ。腕や服の一つくらい自由にならない程度なら御の字もいいところだ。そんな感想を抱いてしまうのも無理はないだろうと、誰にとがめられるわけでもないが自己弁護して。とりあえず起きる気配のない彼女の寝顔を眺める。
(……それにしても)
 半ば以上強引に腕の中に閉じ込めたまま眠ったことは覚えていたが、どうやらそのまま花は逃げもせずに一緒に寝てしまったらしい。それがらしいというか、なんというか。緩む口元をそのままに起こさないように静かに引き寄せて、日が陰り始めた夕暮れの中でもきらきらと輝きをこぼす色素の薄い髪に顔を埋める。
 意識しないうちには平気で抱きついたりする割りに、こっちがこういうことをすると、よっぽどなことでもないと大人しくすることは少ない。きっと目を覚ませばまた赤くなって暴れだすだろうから、今のうちにゆっくりとするかと意地悪く思考をめぐらせる。
 昔は幼すぎて気づけなかった。でもずっと焦がれ続けて、やっと手を伸ばせた鮮やかな世界を自分の中に刻み付けて残した彼女。目覚めるまでのわずかな間くらい、それがこの腕にあるのだとゆっくり実感できる役得ぐらいあってもいいだろう。少しは恋人同士らしくなったこの関係を味わうというには、あまりにもささやかな願いだと思いながら。
 くぅくぅと無心に眠る頭を抱え込んで、瑞貴はその香りを運んだものに唇を落とした。


*Take.55のあれ。絶対瑞貴はムッツリだと主張する会<何を今さら(ぇ
『微睡む』の続きにしようかとも思いましたが突然降って来たのでw
しかし素で砂吐けますね。最初落としたときもよっぽど消そうと思いましたが、まあ実際原作と状況はさほど間違ってないかと許容できたので残留<最終的な基準そこ

2007/08/22 初出  【出雲奏司】

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