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01.膝枕


「それでは、今日はここまででにしましょうか」
 すっ、と向かいに座っていた作法の先生が立ち上がる。
 「あ、はい!」返事もそこそこに慌てて続いて立ち上がって見送ろうとしたけれど、いつもよりも正座したままの時間が長かったせいか足に力が入らない……っていうか、今立ったら確実にぶっ倒れる気がして、あたしはだらだらと冷や汗を流す。
 でもそれなりの付き合いで察してくれたのか。見かねたというよりは、慣れたことだと呆れと諦め半分で「足も痺れているでしょうからお見送りは結構ですよ」と先生はくすりと笑って。あたしはほっと頭を下げた。
「すみません、ありがとうございました!」
「失礼します」と先生が部屋を後にするのと入れ違うように、「よお」と頭上から声がかかった。
「あ、お帰り瑞貴ー」
「今日は作法か?」
「んー、着付けの練習と作法」
「ふーん」
あっそと軽く流した瑞貴になんかいやな予感がして――遠慮会釈なく襲ってきた足の痺れに思わず悲鳴をあげた。
「ぎゃあ!」
 なんてことはない。上着だけ脱ぐとそのままごろりとあたしの膝を枕に横になりやがったのだ瑞貴は。
「足痺れてるのにいきなりなにすんだよバカーッ!!」
 しかも着物着てるのに〜! とヒイィと悲鳴を上げると、瑞貴はうるさそうに手を振って。
「こっちはお勤めで疲れてんだよ。いちいちぎゃーぎゃー騒ぐな。さっさと寝させろ」
「イーヤーじゃー!」
 しばらく言い合いに留まらず、つかみ合いの攻防が続いて。
 まあ結局結果は――

「あー疲れた」
案の定。多少の嘆息を漏らしながらも抵抗を抑えきった瑞貴は、そのままひざを枕に目を閉じる。
「動けないし……」
裾握られたら皺や跡つくしさ、帯もいい加減きついし苦しいし。
 ぶちぶちと、本音半分嫌がらせ半分で耳元で呟いてやると「ウルサイ」と、虫でも払うようにぞんざいに手を振る。
「あーもーホントにアンタは!」
 こんぐらい文句言ったっていいじゃん、と嘯いてみるけど、本当に疲れてるのは分かってるから。
「あーあ」
 本当にこいつはヤなヤツだ。



*時間軸はLastTake後だと。色んな意味で失敗orz 実はこの話の流れでお題(5つ)全部で一つの話にするつもりでした。

2007/05/12 初出  【出雲奏司】

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