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 小夜曲はその場所で --Special seat.



外界の帳はとうに降ろされ、静謐な闇をもたらす。

突然カチャリと落ちた音は小夜曲の始まりの音。
それを迎え微かに響くは穏やかな寝息。







「ただいま」

――おかえりなさい、マグナ。忘れ物見つかりました?

――うん、ほら。大樹の下にあるってのは分かってたんだけど暗くて見つけるのに時間がかかってさ。
   ……ハサハ寝てるのかい?

――ええ、おやすみなさいを言いたいから一緒に待ってるってお話していたんですけど、
  眠たそうだったので膝枕していたら……



丸みを帯びた頬にかかる黒髪を、優しい手つきでそっと掬い上げる。



――そういえばマグナに話しましたっけ? 
  この間ハサハちゃんが珍しいところで寝てたときのこと

――うーん……多分聞いてないと思う

――この間、マグナが魚釣りにいっていたときがあったでしょう?

――あ、その日は確かアメルはトリスと買い物に行ってたんだよな?

――うん。その日ね、あたしたちが出かけてる間にハサハちゃんネスティに本読んでってお願いして
  お膝に乗ってたんですけど……マグナ、笑ってます?

――……っく、く……想像するとおかしくて……っぷ……ごめん、でそれで?

――もう……それから本を読んでいる最中にハサハちゃんやっぱり今みたいに寝ちゃったみたいでね。
  あたしたちが帰ったときネスティ動くに動けなくて、そのまま抱っこしていたんですけど……



くすっと笑うような吐息が、柔らかな曲線を描く口元から漏れる。



――その姿を見て、トリス、なんて言ったと思います?

――……「羨ましい」とか「いいなぁー!」とか?

――「ずるーい!その場所あたしの特等席なのにぃー!」



「あっはっはっはっはっはっ!」
「マグナ!」



――大きな声を出さないで! ハサハちゃんが起きちゃいます……

――ごめんごめん、そりゃあネスも慌ててただろ?

――うん、すぐにネスティ真っ赤になってね



――『君は馬鹿かっ!!?』



――やっぱりなぁー

――ふふ、やっぱりわかりました?



悪戯っぽく互いに目を交わして。



――ネスティが叫んじゃったから、ハサハちゃんも目を覚ましちゃって。
  そこで話しもうやむやになっちゃったんですけどね

――本当にネスが帰ってきてから前以上に甘えてるんだ。トリス

――……双子の兄としては淋しいですか? マグナ

――別にそうでもないよ。
  そうしていたい気持ちは痛いほどわかるし、あいつが幸せならなにもいうことはないさ

――……マグナ……

――それにしてもハサハはホントにずるいよな?

――……え?

――トリスの特等席だけじゃなくて俺の特等席まで取るんだから

――え? ええっ!? マ、マグナ??



お互いいつもとは逆の目線で見上げて見下ろす。



――いつからそんな特等席だなんて決まったんですか……?



にっ、と口の端を持ち上げて、深い紫水晶が輝いた。



――今。俺が決めた



下に傾けられた首から零れた亜麻色の髪に手が伸ばされ、直すようにそのまま肩の後ろへと導く。



――もぅ……トリスのこと、言えないじゃないんですか?

――アメル、それ誉め言葉にしかならないって







どちらからともなく下ろされた帳は暗闇をもたらすものではなく……

途切れた小夜曲の代わりのように流れ始めた絹糸のさらさらという音。
微かに夜の空気を震わせた。








-END-



2001.11.10 [ 出雲 奏司 ]

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